オリジン;何かが始まり、生まれ、あるいは受け継がれる地

毎朝のコーヒーを買うのは簡単です。「コーヒーをください」「どうもありがとう」 ― そうしてにっこり笑い歩き出したあなたの手には、おいしいエスプレッソのカップがある。しかし、私たちにとって「コーヒーを買う」ということは、あまり単純なものではありません。

コーヒーを買うにいたるまでは、もう少し複雑なやりとりの連鎖があります。複数の国の輸出業者と連携し、ビジネスの交渉を行い、物流業者と一緒にサプライチェーンを確立し、しかもその各所で立ちはだかる言葉の壁を乗り越えなくてはなりません。創業から30年が経った今でも、私たちは常にこの連鎖の中にあるさまざまな事情を理解しながら学んでいく必要があります。

語り継がれる話というものは、すべてきちんとした「始まり」から成り立ちます。そして、みなさんが毎朝手にするコーヒーの始まりは、オリジン ― つまりコーヒー豆の原産地にあります。そこが単一農園であろうと大規模農園であろうと、はたまた共同農園であろうと、すべてのコーヒーがここから始まるのです。

2017年7月、各国のオールプレスのロースタリーメンバーであるペター(東京)、シェーン(オークランド)、そしてジェームズ(ロンドン)の3人が、私たちにとって重要な原産国であるブラジルとコロンビアに飛び立ちました。オールプレス・ブレンドを構成する4つのうちの2つのオリジンです。

コーヒー豆の原産国に行ったこのある人なら誰であろうと、現地の輸出業者や生産者とカッピングテーブルでつながれることは、メールやファックスでのやりとりよりもずっと価値があると知っています。そして、訪問の目的は回数を重ねても常に同じです。人と人とのつながりをつくり、自己研鑽に励み、農園を視察するたびに学び、発見する。原産国への訪問は、コーヒーの買い付けという難しいプロセスを一歩ずつ自分たちなりのやり方で切り開いていく素晴らしい機会となります。

ペター、シェーン、ジェームズの3人がブラジルとコロンビアから帰国したとき、今回の旅について少し質問をしてみました。彼らが得た学びや発見のストーリーをぜひご覧ください。

ジェームズ、原産国への訪問は初めてだったね。一番驚いたことは何だった?

ジェームズ:一番衝撃を受けたのは生産者の専門性の高さかな。自分たちが何のためにどういうことをしているのかを本当によく理解しているんだ。おいしいコーヒーは偶然できるものではないってことがよく分かったよ!

シェーンは生豆のバイヤーとしてこれまで何度も原産国に行っているけど、今でも驚かされることはある?

シェーン:来年は不作の年と言われているのに、平均の収穫量が30袋/haのところ、90袋/haという高い予想値を出している農園がいくつかあって驚いたよ。剪定のやり方を変えたり、ウェットプロセスや新しい機械を導入したりして、定石にとらわれずに常にいろいろな方法を試しているんだ。同じやり方で全部の農園が上手くいくわけじゃないってことだね。

今回の旅で一番心に残った発見は何だった?

ペター:ブラジルを原産国とするコーヒーの種類の多さかな。この旅の前までブラジルのコーヒーは他の原産国と比べて風味がワンパターンな印象だったんだけど、現地に行ってからこれまでの自分じゃ想像できないようなクリーンでジューシーな酸味のフレーバーがあると知ったんだ。

ジェームズ:ナチュラルコーヒー全部がフルーティーな味わいというわけでもないってことも新しい発見だったね。あとはカイピリーニャかな。

カッピングしたコーヒーの中で一番印象に残ったのは?

シェーン:サントスのロースタリーにあったブルボンのエスプレッソはかなり印象的だったよ。欠陥豆が混ざってる自社消費用の豆をすごく深煎りにして作るんだ。ブルボンらしい甘さがある、お手本みたいな味のコーヒーだよ。

ジェームズ:個人的に印象的だったのは、ポルタ・ドゥ・セウのかなり変わったナチュラルプロセスのコーヒーかな。シェーンがカッピングの10分前にかなり大きいコンポスタブルのコーヒーバッグをつついてたんだけど、それと同じ匂いがした。あまりおいしくはないけど記憶に残った味ではあるよ。

この旅で出会った中で一番面白かった人は?

ペター:クオリカフェックスのジョアン・シュタウト。もともとは生産者で、世界最大のコーヒーマシン会社のマーケティングディレクターだったこともあって、今は輸出業者として働いてるんだけど、ブラジル人ならではの面倒見の良さが骨の髄まで染み込んでいるような人で、ジェームズと僕に何でも教えてくれたよ。素晴らしい旅のスタートを切れたのは彼のおかげだね。

ジェームズ:僕らとはかなり深い関係性の輸出業者のストックラーで働いてるオーレかな。オーレとは4日間一緒に過ごしたんだけど、彼のブラジルのコーヒー産業についての知識量はかなり驚異的だった。ドイツ語、ポルトガル語、英語が堪能で、面白い情報がどんどん溢れてくる泉みたいな人だよ。まさにレジェンドだね。

シェーン:サンタ・リサとサンタ・ロサにいるバウディール。サンタ・アリーナの近くにある20ヘクタールくらいの小規模農家を彼がアドバイザーとなって手助けしてるんだ。バウディールのコーヒーに対する情熱や熱意はまさに伝染しそうなほどだったよ。彼はもともとサンパウロでITの仕事をしていたんだけど、何年か前に奥さんの弟の農園を手伝うために引っ越してきたんだって。農園で働いた経験がなかったバウディールは、コーヒー栽培の全部のプロセスに疑問を持って、農園の地図に線を引いて分けたそれぞれの区画の収穫量、カッピング、土壌分析の結果を記録していったんだ。そしたらその年にバル・ダ・グラマコーヒ生産者連合の会長になって、彼が作ったコーヒーも協会の品評会で入賞したんだよ。

「お腹が空かないどころか、次の食事が用意されても満腹のままなんて初めてのことだった」

旅の中で大変だったことは?

ペター:僕は大柄な方ではないけど、食欲はかなりあるんだ。なのにお腹が空かないどころか、次の食事が用意されても満腹のままなんて初めてのことだったよ。今までこんなに甘やかされたことはないから、みんなに歓迎してもらえたのが本当に嬉しかった。

ジェームズ:ランチとディナーのときは輸出業者の人たちがもてなしてくれてたんだけど、2週目あたりから大量のお肉を食べるのがだんだんとしんどくなってきてね。日によってはランチが2時間くらい長引いて、そのあとのカッピングセッションの時間に流れ込むこともあったよ。